6月5日参議院本会議にて「地方自治法改正案」の代表質問を行いました。
長文ですが、発言内容です。
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立憲民主・社民の岸真紀子です。会派を代表し、只今議題となりました「地方自治法の一部を改正する法律案」について、松本総務大臣に対し、質問します。
本改正案は、岸田内閣総理大臣の諮問機関である「第33次地方制度調査会」が昨年末にまとめた答申内容を踏まえ、法案が提出されたと承知しています。
しかし、この答申自体が最初から政府の意図的な答えありきで進んだのではないかと疑念を持たざるを得ません。地方制度調査会の議論では、国の指示権拡大に対し、私も委員として反対意見を述べていますし、相当慎重な意見が出されていたにも関わらず、反映されていません。果たして、政府の介入のない客観的な答申だったと言えるのか疑問です。
総務省は諮問機関である地方制度調査会を隠れ蓑にしてはいないか、地方制度調査会設置法の目的である「日本国憲法の基本理念を十分に具現するように現行地方制度に全般的な検討を加えること」から反していないか、この指摘に対し、大臣の答弁を求めます。
政府は、新型コロナ対応をめぐり、国と地方自治体の調整が混乱したことを教訓に、これまでの地方分権に逆行する補充的指示権、いわゆる「国の指示権拡大」を柱とする本改正案を提出しています。しかし、指示権の拡大が必要との立法事実は判然としていません。
個別法が想定しない事態に対処するための国の関与は、技術的助言や勧告しかできないため、本法案において、「大規模な災害、感染症のまん延その他その及ぼす被害の程度においてこれらに類する国民の安全に重大な影響を及ぼす事態における国と地方自治体との関係等の特例を規定する」としています。
はて、技術的助言や勧告しかできないから支障があるとは具体的に何を指しているのでしょうか。お答え願います。
政府が事例として説明しているコロナ禍での「ダイヤモンド・プリンセス号」の対応は、本来「新型インフルエンザ等対策特別措置法」が新型コロナウイルス感染症についても「等」で読み取ることが可能で、特措法の下で指示権も含め対応できたのではないでしょうか。当時の政府が条文を読み誤って対象ではないと言い続けたことに原因があるのではないか。
政府が制度をうまく運用できなかっただけであり、政府のコロナ対策の失敗を「制度が悪かった」とすり替えているのではないか。「ダイヤモンド・プリンセス号」での対応を含め、政府のコロナ対策を検証した上での本法案の提出なのか、大臣、お答えください。
松本大臣は、衆議院の審議において、国の指示権拡大は、国民の安全に重大な影響が及ぶ場合に限るので「地方分権の後退との指摘は当たらない」と答弁していますが、メッセージとして地方自治体がどのように受け止めるか想像できていますか。
地方分権一括法の成立から20年以上経過した今もなお、税源移譲が不十分な中、条文上で「上下・主従」と捉えられかねない改正内容では、国と地方のパワーバランスが崩れる恐れはないのか。自治体が委縮、或いは指示待ちになってしまうといった負の効果に、強い懸念があります。なぜ、地方分権の後退とならないと言えるのか、わかりやすく説明願います。
本改正案は、衆議院で修正がなされ参議院に送られましたが、その内容は極めて限定的で、本法案の最大の問題である地方分権に逆行する「国の指示権拡大」の歯止めになるかは不透明です。
立憲民主党は、衆議院における審議で、①国の地方への「関与の原則」の維持、②自治体との事前協議・調整の義務化、③国会の関与と事後検証の義務化の3点を柱とする修正を与党に求めましたが、受け入れられませんでした。
国が誤った判断をしないとは限らないため、事後検証は必須です。
2020年2月27日、当時の政権が突然、3月2日から全国の小中学校と高校、特別支援学校に臨時休校を要請する考えを表明しました。いわゆる「全国学校一斉休校」です。あれはあくまで要請であったものの、感染者が一人も出ていない自治体も国の休校要請に従い、どれだけ多くの子どもの「学びの機会」や「居場所」を奪うことになったか検証したのでしょうか。
学童保育は開所しても、学校の教室よりも狭い部屋での預かりに現場がどれほど苦労したか、保護者も仕事を辞めざるを得ない事態を生み、児童虐待の増加といった問題もありました。国民生活は大きく混乱しました。
一方で、島根県は県内に1人も感染者がいなかったことから国の要請には従わず休校としなかったので、子どもの学びや居場所を守ることができました。
また、有識者によれば「休校のメリットはなかった」との指摘もあります。
この事例から見ても、国会における事後報告と合わせて検証を義務化することで、個別法改正に繋げるなど、国会の議論に資する修正をすべきと考えますが、大臣の見解を求めます。
国会への事後報告を義務付ける修正は加えられましたが、閣議決定を経れば指示できる仕組みには変わらず、時の政権による恣意的な運用の恐れは消えていません。
衆議院の審議では、武力攻撃事態対処法で想定しない事態が対象となるのか焦点となり、大臣は対処法には必要な規定が設けられており本法案では「想定していない」と答弁しています。
しかし、想定していないことを想定しての改正案であり、条文の立て付けから言えば法律上可能ではないですか。武力攻撃事態等及び存立危機事態での発動をしないとの明言は未来永劫とお約束していただけるのか、お伺いします。
私は個別法に基づかない指示権は発動すべきではないと考えますが、万が一、発動する場合の歯止めが必要です。当該自治体との事前協議は絶対条件とすべきです。
実態把握も含めた事前協議、そして、コミュニケーションをとれば、わざわざ国からの指示といった上下・主従関係にしなくても、すべて地方自治体が自主的・自立的に対応できると考えます。
だからこそ、当該自治体との協議は、原則「義務」とし、「緊急を要する場合はこの限りではない」などと修正すべきです。松本大臣、当該自治体の理解納得は欠かせません。なぜ、努力義務に止めるのか、今からでも条文を出し直すべきではないですか。
新型インフルエンザ等対策特別措置法の「まん延防止等重点措置」や「緊急事態宣言」を振り返ると、当時の政権は、2020年4月7日に東京など7都府県に緊急事態宣言を行い、4月16日に対象を全国に拡大しています。その際、コロナが急速に拡大し、限られた時間でのやり取りが必要であったため、文書や紙ではなく、電話を活用してスピーディーにやり取りをしていたと承知しています。
当時のコロナ対策室が分担して、都道府県の知事や幹部などに、個別、事前に宣言発出や全国に適用拡大する意向を伝えた上で、実施していました。当時の未知なる感染症対応でも、当該自治体に事前協議したことを踏まえれば、当然、事前協議はできます。
なお、現段階で総務省が示している事前に「国が地方の意見を求める」とは、どこまで意見反映が担保されるのか、自治体、議会、住民との関係でどう捉えているのか。お答え願います。
国の判断がすべて正しいわけではない事例をもう1つ紹介します。
政府は災害を想定していますが、2016年熊本地震は4月14日に前震がありました。当時の総理大臣は防災担当大臣に対して、屋外に避難している人たちを屋内に避難するよう指示をしました。
しかし、その時、益城町の体育館の副館長が、屋内避難は危険と判断し、政府から圧力を受けても対応しませんでした。その後、4月16日に本震が発生、メインアリーナの天井パネルや照明がほとんど落下し、甚大な被害となりました。政府の要請に従わず、体育館を避難スペースとして開放しなかったことが人的被害を未然に防ぎました。
国が持つ情報は一部であり、地域住民を守るには限界があります。
熊本地震のように事態は現場で起きており、緊急時だからこそ次々と情勢は変化します。本法案にある個別法に基づかない、今のところ何を想定しているのかも不明な事態時に、国からの指示が一旦出てしまえば自治体は縛られることになり、その時々の最適な措置が取れなくなるのではないでしょうか。指示が出された後の機動的な対応、例えば、出された後の当該自治体との協議をどのように考えているのか、指示は場合によっては解除されるのか、大臣に伺います。
コロナ禍では、地方自治体が地域の現況に応じ、自ら創意工夫した感染症対策を生み出し、それをのちに国が後追いで取り入れたり、他の地域に反映されたケースがありました。想定していない事態だからこそ、風通しの良い仕組み、地方自治体から国に対し、是正を求め、指示できる制度が必要です。
そうすれば国と地方の関係は「対等・協力」関係を維持し、何より国民の生命等を保護できます。大臣、自治体から国に是正を求める制度が必要ではないですか。
衆議院の審議で松本大臣は、「国が助言として行うと自治体の責任において実施することになって国の責任の所在が不明確になる。国の責任の所在を明確化することに意義がある。」と答弁していますが、ここでいう国の「責任」とは何を指しているのか、明らかにしてください。
なお、5月21日衆議院総務委員会において、第33次地方制度調査会の専門小委員会の委員長をされていた山本参考人は、「指示の制度を設けても、国が責任を負うのはあくまで指示の範囲に限定される。地方公共団体が住民の安全を守る基本的な事務と責任が国に移るというわけではない」と意見陳述しています。
山本参考人の意見を踏まえると、国が指示権を発動したとしても、結局は住民の安全を守る基本的な事務と責任は自治体にあり、そうなると国の介入は余分であって、先ほど例示した学校一斉休校や熊本地震の例を踏まえても、責任のない国が指示を出すことは、自治体や地域住民にとっての弊害となりかねず、大臣の答弁と矛盾していませんか。
また、本改正案では、少子高齢社会・人口減少により地方自治体における人材確保の難しさを踏まえ、新たに「指定地域共同活動団体制度」を規定するとしています。例えば、自治会や町内会、NPO、企業等の地縁団体に、条例の定める要件を備えれば、指定地域共同活動団体として指定できるとし、同団体への支援や活動の調整、随意契約による事務委託、行政財産の貸付といったことが可能になります。これは具体的にどういった活動を想定しているのでしょうか。
そもそも多様な地域の主体が少なくなり、共助が困難な地域が増えてきているからこそ自治体の役割の重要性が求められている中、この新制度は、根本的解決になるのか疑問です。地方自治体の強化には、職員定数増を見据えた地方財政の確立・拡充こそが必要であると考えますが、大臣の見解をお願いします。
結びに、1993年に衆参両議院において「地方分権の推進に関する決議」が全会一致で可決してから31年、まさか本法案のような地方を蔑ろにするものが提出されるとは思いませんでした。
「地方自治を破壊する自民党」に対し、「地方自治を守り発展させる立憲民主党」の違いがはっきりしました。
立憲民主党は、地方の衰退を招いた政権与党から、地域住民の暮らしを守るためにも、政権奪取に向け全力で取り組んでいくことを申し上げ、質問を終わります。